月一ペースでやっている読書記録の2024年11月版です。その月読んだ本の中から、「面白かった」「読んでよかった」と思えるものをピックアップしています。
別れを告げない
登場人物が感じる痛みや苦しみを憑依体験するような読書でした。物語全体を悲しみが包み、その悲しみを抱えたまま私たち読者は今後の人生を生きていかないといけません。
史実にある「済州島4・3事件」。国家による民間人虐殺の歴史を扱いながら、それが幻想の中で語られることによって、少しだけその悲惨さを和らいで受け止められた気がします。なにより著者の言葉の表現の凄さに圧倒されるので、「この物語を読むのを途中で止めるわけにはいかない」と思いながら、最後まで読みました。
ちなみに、作者はあとがきでこちらの本を「究極の愛の小説」だとも語っています。過ぎ去ったもの、決して戻らないもの、存在しないもの、それらをいつまでも思い続けるということは、たしかに愛なしには不可能なのだと思いました。
ネガティブ・ケイパビリティ 答えの出ない事態に耐える力
ネガティブ・ケイパビリティの言葉の意味は、「どうにも答えが出ず、対処しようのない事態に耐える力」とのことです。
不安を抱えたまま、それが解消される兆しも見えない状態に居続けることはとてもストレスが溜まります。それでも安易な解決法に流されるのではなく、宙吊りな状態に耐える力というのは大切です。
特に「治療はできないが、トリートメントはできる」という言葉が印象に残りました。美容院で使われるトリートメントは髪の痛みを治すことはできないが、髪をケアしてこれ以上悪くなることを防いでいます。
どうにもならない問題に直面したとして、解決はできずともそれ以上悪くならないようにしていくことも治療行為となります。いつか希望の兆しが見えることを信じ、「めげずに耐えることのできる能力」というものを知れたことが大きな収穫の読書でした。
歌の終わりは海
タイトルを英語にすると「song end sea=ソングエンドシー=尊厳死」。森博嗣さんらしい遊びの効いたタイトルですが、内容はしっかりと重たいです。
苦しまないうちに、自らの尊厳を保ったままに人生を終わらせたいと思う人は意外と多いんじゃないでしょうか。自分がそっち側だからそう感じるんですかね。末期状態の患者だけでなく、自らで人生の終わりを決めたいという考えもあります。
ただ、誰だって突発的に「死にたい」という思う時があります。そういう感情的な衝動はポジティブな感情の反作用で縒り戻しができますが、一時の判断で取り返しのつかない決断を下してしまう可能性があります。
もっと大きな視点でいうと、命というのは個人が自由にできるものなのか、社会的に守らなければならないものなのか、という議論もあります。
本当に人によりけりで、ちゃんと考え、理屈もあり、強い意志を持って死を選ぶ人もいれば、衝動的に人生から逃避する人もいます。他人の死生観に触れることは自分の人生の生き方に影響を受けますし、時に率直に共有することで孤独感が和らぐこともあります。
いまだ社会に認知されていない個人の自殺する動機があり、「あなたは死をどのように捉えているのか」、そういった問いかけをゆっくりと味わいながらの読書でした。
人は、死に向かって、最後は誰でも不幸になる、ということだろうか。
どうして、幸せを感じたまま死ぬことができないのだろうか?
引用:『歌の終わりは海』講談社文庫p21
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